*これは管楽器とヒトの雑誌「PIPERSパイパーズ」by杉原書店に連載中のエッセイから過去のナンバー
(初回2000年9月号〜2005年9月号) を同紙の許可を得てここに連載しています。
|
第16回
|
(パイパーズ/2001年12月号第244号)
|
| 小川隆夫 |
いつも思うのだが「プロデューサー」という職業には雲をつかむような不思議さが漂っている。私のような単純人間からみれば、何もない所からいつのまにか何かを存在させてしまう「マジシャン」のような存在だ。そこには「華麗さ」と「怪しさ」が常に同居している。タネを明かされれば「そうか……」と言ってしまえるが、その見事なトリックにはみんな舌をまく。演奏家というシルクハットから次々と予想もしないものを現出させる。ただの帽子が魔法の帽子に見えてくるのだ。しかもタネの単純さとのギャップがあればあるほど華麗なマジックになるのだ。
11/25に私の2枚目のCDが発売される。ジャズとクラシックの融合を目指したその名も「Jurassic ジュラシック」。そのプロデューサー小川隆夫氏はまさに引田天功もびっくりのマジシャンであった。
家に10万枚のレコードを所有し、毎晩ライブをはしごするほどのジャズマニアであり、そして締め切りを守るジャズライターであり、本業(?)は多忙な医師である。話などから推定する年齢より(恐らく)かなり若い風貌と行動。そして、氏の口から出る何気ない話がとてつもない。あのマルサリスに自分の子供をベビーシッターさせていたこともあるという。
レコーディングの最終日は徹夜となったにもかかわらず、そのまま病院へ診療に向かった。私ならこんな医者に見てもらいたくはない。しかし「僕を待ってるおばあちゃんがいるんだ」と言って急いで帰っていった。患者には人気があるらしい。
氏が作ったCDがジャズとクラシックで「Jurassic ジュラシック」。単なる「クラシックmeetsジャズ」的なCDにしたくはない、水素と酸素から水が生まれるようにジャズとクラシックが融合し新しい何かを産み出したい……これが氏の当初からのねらいだった。
クリヤマコト(pf)納浩一(bs)松山修(ds)と、それぞれのフィールドからとびきりの材料を集めたシルクハットの中に私を放り込み、一体何が出てくるんだとみんなが固唾を飲んで見守った。すると、誰もが想像しなかった(もちろん私もメンバーのみんなも)ものが目の前にたしかに現れたのだ。それがこのCDの中にある。まさに「Jurassic」がこの中にある。しかも、今生まれたばかりで、これから進化していく可能性すら内包していると私は思っている。
いまや平井堅の曲まで作っている売れっ子のクリヤさんに、最後には「僕はこのプロジェクトは仕事と思っていません。ライフワークです!」とまで言わしめてしまった(ギャラが安いという遠回しの言い方だったのかも?)。
小川氏に最初出あったころ「君は何も知らないというのがいいところだ」といわれた(小川隆夫と言う人物も失礼ながら存じ上げず、つい最近家にあるジャズのCDの解説のほとんどが氏によるものだと言うことに気づき、驚いているぐらい無知である)。そうなのだ、初めからタネを知ろうとするような邪悪な心を持っていては華麗なマジックは体験出来ないのだ。これを聴く皆さんも邪悪な心は捨て去って、氏のマジックに身も心もあずけて頂きたい。
すべての録音が終わった明け方、「平野君、僕はこのCDの売り文句は『ジャズ界に殴り込み』にしようと思ってるんだ」と言われた。そっ、そんな恐ろしい……と思ったものの、もうろうとした頭で、雪駄に着流し、さらしをまいてサックスを持って殴り込みに出かける角刈りの自分を絵にしていた。しかしその後、良識あるCD会社によって宣伝チラシには「ジャズ界に一石を投じる」に変更されていた。頭の中で、とお〜くから石を投げてダッシュで逃げる坊主頭に半ズボンの自分を絵にしていた。
はたしてこれを聴いて下さった方々はどちらの私を頭の中に描いてくれるだろう。とドキドキしながらCDが店頭にならぶ日を待ちわびている。
|